葬儀への想い(旧葬送空間)
2023.01.05
音楽葬は、故人様を偲ぶだけでなく、その音楽によってその方の人生を表現することもできるものです。
これまで多くの音楽葬を執り行ってまいりましたが、その中でも印象深い音楽葬のお話をしたいと思います。
町田駅前にある、浄運寺会館にて一般葬のお手伝いをした時のことです。
一般葬とは、家族や親族だけでなく、故人様とお付き合いのあった方、お世話になった方に参列していただく、いわば伝統的なお葬式の形です。
今回は、日蓮宗菩提寺導師を中心とした式でした。故人様は、シャンソンをこよなく愛されていた方でしたので、仏式のお葬式に生演奏を取り入れた形のお葬式となりました。
音楽葬を知らない方も多いので、仏式のお葬式に生演奏?と思われるかもしれませんが、一般的なお葬式のスタイルにも、生演奏を取り入れることはできるのです。
幅広いジャンルの音楽に対応していますので、クラシックだけでなく、歌謡曲やジャズ、シャンソンなどお葬式のコンセプトに合わせた選曲が可能です。
今回は、お通夜での献奏曲を「愛の讃歌」にしました。言わずと知れたシャンソンの名曲です。エディット・ピアフが歌い、日本では越路吹雪さんが歌って有名になりました。
故人様はシャンソンがお好きでしたので、この曲ほどピッタリ来るものはないでしょう。導師の入場前にシンセサイザーソロでこの曲を献奏いたしました。
翌日の告別式は2時間ありましたので、演奏できる曲も増えました。
告別式での選曲は、
・カノン
・枯葉
・パリの散歩道
カノンは結婚式でも演奏される曲ですが、明確な意図を持って作られた曲ではないので、お葬式でもよく使われています。
そして、ブラームスの「ホルン三重奏曲 変ホ長調 作品40 第3楽章」へと続きます。
この曲はブラームスという作曲家が自分の母親が亡くなった際に書いた葬送の曲であり、30代の名曲と名高いホルントリオです。「母への悲歌」ともいわれるこの曲は、ブラームスの想いが込められた心に染みわたる曲です。
冒頭、シンセサイザーが葬送を告げるラッパを鳴らし曲が始まります。そして、それぞれの楽器が静かに死者との思い出を話し出します。
中盤、ヴァイオリンのメロディーですべてが無となり息が止まった後、故人の御霊を送ります。
ブラームスは多くの室内音楽を残していますが、ホルンを用いた楽曲は、実はこの1曲だけなのです。とはいえホルンが好きではなかったわけではなく、むしろ好きだったのではないかと思われます。少年時代から愛する母のためにホルンをよく吹いていたそうです。
この第3楽章は、当初ホルントリオにあわせて作られたものの、ブラームスのお母様が76歳でこの世を去ったことをきっかけに、母を追悼する気持ちで、全く新しい曲に差し替えられたというエピソードのある曲なのです。
終楽章を書き終えた後に他の楽章を変えることは音楽史史上でも異例であり、また、全楽章の中でこの楽章だけが異質です。ブラームスがこの曲をあえて単体で発表せずホルントリオの中に入れた深い意味や意思は、計り知れません。
華やかさもありつつ哀愁を帯びたこの曲によって、参列された方々の心の中に、しっかりと故人様の思い出が刻み込まれたことでしょう。
作曲家の母を想う気持ちと、ご家族の故人様を想う気持ちが見事にシンクロした瞬間でした。
ブラームスは標題音楽が大嫌いだったといわれています。標題音楽とはその曲が情景、風景など音楽以外の想念を聴き手に思い起こさせることを目的として作られた曲のことで、これに対する言葉が絶対音楽です。絶対音楽には基本的にタイトルがつけられていません。(ただし、絶対音楽でもタイトルがつけられているものはあります)
そのブラームスが、「母のため」という明確なストーリー性をもって曲を書いたこと自体、異例だといえます。それほどまでに、母への強いを持っていたということなのでしょう。
何年経っても、この日に演奏された曲を聞けば、きっと故人様のことを思い出すでしょう。
一流の音楽家による力強い生演奏は、参列された方々の心の中に故人様の思い出をしっかりと刻みつけてくれるのです。
今回は、故人様がシャンソンがお好きだったとのことでしたので、シャンソンを中心にした選曲となりましたが、曲目は自由に選ぶことができます。どのような形にも臨機応変に対応できるのが音楽葬の魅力です。
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