納棺師が綴る『故人カルテ』

2016.04.10

故人のカルテ09 遺体損壊

おくりびとの想い~

 

やすらかな姿でおやすみいただきたい。その人らしい、より自然な姿で。

 

亡くなられた方のご処置・メイクにおいて、私たちは次の3点をまず考えます。

 

 

・ご葬儀を待つ間の死後変化をいかに緩やかにさせるか、

・生じている変化への対応

・これから生じる避けられない死後変化を、どれだけ感じにくくするか

 

「ご遺体のご処置をする」という行為は、経験と技術があってこそ成り立つ仕事です。

 

ご家族の希望を叶えるために施された「ご処置」が、「遺体損壊」にあたる行為と紙一重なのだと感じる事がありました。

 

 

先日、ご自宅で最期を過ごされたとの連絡がございました。

 

亡くなると自然に体が冷たくなると思っている方がほとんどでしょう。

 

時間の経過とともに、周囲の環境の温度になっていくだけです。

それも急激に生じることはありません。

外気温にもよりますが、10時間以上かけたゆっくりとした変化です。

 

一定の低気温・湿度に保たれた病院の霊安室とは異なり、ご自宅のお部屋は暖かいことがほとんどです。

 

まずは、体内の酵素が失活する25℃以下に、体の中心を冷却する必要があります。

 

ご自宅で亡くなられた場合、早急な冷却が重要となります。

 

細菌の活動を抑えられる「深部体温を5℃以下にすること」が、腐敗から守るためのベストな方法ではありますが、ご自宅でご葬儀を待つことに重きを置くと難しいのが実際問題です。

 

ご家族のご意向は、「このまま自宅で見送りたい。そのままの姿でいてほしい」

 

むくみだけでなく、腹水もあり、状態として良くはありませんでした。

 

締め切って部屋を涼しくしていただくことはできないとのことでした。

 

この部屋の環境では、時間の経過とともに、顔の雰囲気も確実に変わるでしょう。

 

水分過多な様子から、ご火葬までの日程によっては水分の滲みだしも考えられます。

 

その人らしいより自然な姿でいていただくためには、早急な納棺と、ご火葬までの日延べを3~4日以内にすべき状況でした。

 

お顔のご処置は、訪問医・在宅ケアの方々により、すでにお化粧まで施されておりました。

 

私たちへの処置依頼は、生じた変化への対応のみでした。

 

変化が生じやすい部位を中心に、冷却を工夫する対応しかありません。

 

日にちが経過するにつれて、お顔の筋肉の死後硬直が解けてゆきます。

 

ハリのあった肌は、重力によってお顔の肉が下がってゆきます。

 

目元から頬にかけて変化が目立ちます。

 

まぶたを接着剤でくっつけてとじられていた故人は、下がった皮膚に引っ張られて不自然な様子です。

 

まつ毛にも接着剤がついているため、外して直すとまつ毛が消失し、より不自然になります。

 

以前、故人のカルテcase03にも記載しましたが、亡くなると、まぶたは自然と開きます。

⇒http://sougi-sakura.com/blog/makeup/karte_004/

 

自然に見えるように閉じる方法があります。

 

ただ接着剤でくっつければ良いというわけではありません。

 

されるのであれば、皮膚が下がってゆくことも考慮してくっつけてください。

 

そもそも、接着剤を使うのであれば、はみ出ないような技術を持ってすべきです。

 

固まっている状態から少しづつ下に引っ張られ、薄目になり、眼球も乾燥によってへこんできていました。

 

ヘタに処置をされると直すこともできません。

 

 

ご家族の希望である「そのままの姿で」を、手を加えたことによって守れない上に、復元することもできなくなる「ご処置」は、「損壊」にあたるように思います。

 

お体に傷をつけることだけが、「遺体損壊」ではありません。

 

手を加えることは、死後変化に逆らう行為であることを意識し、その後のお体の変化も考慮して対応しなければなりません。

 

経験と技術があってこそ成り立つのが、「ご遺体のご処置」です。

 

 

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