納棺師が綴る『故人カルテ』
2015.10.05
「おくりびと」の想い~
故人をご自宅に帰らせてあげたいと思います。ただ、腐敗させたくありません。
病院等で安らかに亡くなられたとしても、保冷施設へ連れていかなければならないケースもあります。
敗血症という病気です。
血管内で細菌が繁殖し、全身が炎症をおこしている状態です。ガンや心筋梗塞のような、直接の死因ではないため、家族も知らない場合があります。死亡診断書に記載がないこともあります。そして生きている間は、見た目に特別な変化がないということが、とても厄介なのです。
私たちは、故人から様々なメッセージを受け取ります。ちょっとした変化が日にちをかけて現れ、それを読み取り、お体の処置をしています。この敗血症という病気の場合、腐敗の手順を飛ばしているかのように、突然大きな変化が生じます。それも数時間の内に。
先日、敗血症を患っている故人にお会いしました。
午後4時に亡くなられ、病院の処置を待って、ご自宅へお連れし、ドライアイスをあてました。午後7時でした。ご葬儀の打ち合わせに移り、死亡届を記入していただきながら、診断書に目をやると、敗血症の文字が。ご家族に伺うと、病院からは特に聞いていないとのことでした。ご家族に敗血症についてのお話とともに、これから起きるであろうことをお話ししました。火葬は4日後。当日まで自宅で過ごせる予定でしたが、ご自宅の構造上、棺が家に入らないため、2日間ご自宅で過ごして、その後は保冷施設でお預かりすることになりました。
打合せも済み、故人のご処置・メイクを行おうとお顔を見ると、皮膚の薄い部分である目元や唇付近に若干ではあるものの変色がすでに生じていました。亡くなられてから4時間もたっていません。ご自宅でたくさんのご友人にお会いして最後を迎えたいという希望を叶えてさしあげたい。そのためには今すぐにでも保冷施設へお連れしなければならない。このままではファンデーションでは隠しきれない状態に、いつなるやもわかりません。ご家族に現状を知っていただき、翌日の朝、ドライアイスの追加時に様子を見て判断することにいたしました。
そして翌朝、やはり変色に進行がみられました。ご葬儀当日に生前と変わらない姿で皆さまにお会いできるよう、手遅れになる前に保冷施設にお連れしなければなりません。ご家族の意向もくんで、その日の夜9時、ご自宅を出発いたしました。
ご葬儀当日、たくさんのご友人に変わらぬ姿でお見送りされて、旅立っていかれました。ご家族から「私たちじゃわからないことを教えていただいてありがとうございました。的確な判断があって、今日が迎えられたと思います。」とおっしゃっていただきました。
【故人のカルテ01】敗血症のポイント
葬儀についての資料を
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