納棺師が綴る『故人カルテ』

2015.10.26

【故人のカルテ02】気管切開

おくりびとの想い~

 

亡くなられた方の傷は、ご遺族の辛い気持ちをよびおこすかもしれない。傷を少しでもわからないようにしてさしあげたい。

 

 

ご処置の際、身体を診ると、その治療痕から生前に様々な治療を受けて、闘病の末に亡くなられたことが伝わってきます。

 

「気管切開」・・・気道を確保するため、喉元にチューブを通す穴をあけること。

 

口や鼻からチューブを通して、人工呼吸器を使用している期間が長くなると、「気管切開」に切り替えなければならない場合があります。

それまで毎日タンの吸引をされて、本人も家族も大変な思いをなさっています。

さらに、「気管切開」を施されてから、食事や会話に困難が生じた方もいらっしゃることでしょう。

 

亡くなられて病院を出るとき、その喉元の穴は、ガーゼをあてられているのみです。誤嚥による食べ物やタンが詰まったまま、ガーゼをあてられている方もあります。

細菌が多くいるその穴の周囲は、腐敗しやすい状態です。

 

今年、夏休みも終わる頃。「気管切開」を施された故人にお会いしました。

 

火葬までの5日間、ご自宅でお守りするのは難しく、1日ご自宅で過ごされてから、当社の保冷施設へ来られました。お気に入りの薄桃色のお着物とご一緒に。

 

お着物へ着替え、ご納棺いたしました。揃えた衿に不似合いなガーゼ。

 

喉の大きなガーゼを外すと、「気管切開」をされていました。そして、その穴の周囲は緑色に変色しておりました。食べ物やタンが詰まっており、それが細菌の繁殖を促したために、喉は膨らみ、穴からそれらが飛び出していました。

 

取り出せる限りの異物を除き、殺菌をしてから、穴を埋めて塞ぎました。ワックスで皮膚を作り、喉を修復いたしました。

 

大変おしゃれな方だったそうです。衿を揃え、ウイッグもばっちり決めて、旅立たれました。

ご家族から、「こんなに綺麗になるなんて思ってもみませんでした。最後に、母らしい姿に会えました。ありがとうございました。」とおっしゃっていただきました。

 

 

【故人のカルテ】 気管切開のポイント

・気管に残っている異物を取り除いて殺菌する。

・綿、ワックスを用いて、復元する。

 

Books

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