納棺師が綴る『故人カルテ』
2016.04.30
おくりびとの想い~
やすらかに眠っている姿にしてあげたい。
体液の流出等、死後変化をわからなくしてさしあげたい。
私たちが施す処置メイクは、故人のためであり、ご家族のために行っています。
亡くなるということは、心臓が止まり、脳からの指令もなく、ただ横たわるだけです。
重力に逆らうことができず、皮膚が下がり、笑顔を見ることはできません。
流れることができなくなった血液は、血色を奪います。
細菌と戦うこともできず、傷があってもかさぶたを作る事さえできません。
生きていればあたりまえのことが、全て止まってしまいます。
もちろん、時間が経てば腐敗していきます。
死後のそのような避けられない現象を少しでも抑えるために、ご家族に伝わらないように、我々はご処置を施します。
病院やホームの方々に「エンゼルケア」と呼ばれるご処置をしていただくことがあります。
穏やかに亡くなられた姿をご家族に見ていただき、その後のお身体の移動に伴う振動に耐えられるよう、様々なご処置をしてくださいます。
その内の一つに、「高分子吸収剤の注入」という手法をとる病院があります。
投薬の影響や、腎臓・心臓等の機能障害により、体内に水分が多い状態で亡くなることがしばしばみられます。
また、身体の内側で、出血している場合も多々あります。
そういった体液は、体内に保つ機能が止まってしまっているため、体外へ移動します。
まず、鼻や口、目や耳などの大きな穴から、流れ出します。
点滴や注射の痕など、傷口からも流れ出します。
その後、重力によって水分が下がり、背中側の皮膚から滲みだすこともあります。
通常の病院やホームでは、ご自宅までお連れする間に流出しないよう、穴の入り口付近に綿を詰めて栓をしてくださいます。
ところが、その後の変化まで見据えてなのか、高分子吸収剤を注入してくださる病院があります。
4月半ばの頃でした。
故人はまだ40歳を超えたばかりの女性でした。
喪主は20歳のご長男。
ご葬儀は家族だけでゆっくりと過ごすことを希望していらっしゃいました。
そのため、たくさんのご友人には事前にご自宅にお越しいただいて、お別れしていただくことにしました。
しかし、玄関から入り、曲がりくねった階段を上った先のお部屋しか、ご安置できるお部屋がありませんでした。
担架に乗せて平行を保ってのご移動はできません。
みんなで抱いてお身体を動かしながら、曲がった階段を越えてお部屋へお連れします。
無事、お布団に休んでいただき、ご処置をさせていただこうとお顔を見ると、鼻が大きく膨らんで、血のにじんだ白いものが飛び出しておりました。
高分子吸収剤です。
高分子吸収剤とは、少量で数百倍~数千倍の水分を吸収し、保持する構造を持った物質です。
紙おむつの中身というとわかりやすいでしょうか。
多量の水分と結合することができ、ゲル状になるため液体が流れ出ません。
しかし、吸った分だけ体積が異常に増えます。
膨らんで、口腔と鼻腔の容積では足らず、鼻を押し広げて鼻の形を変え、さらに鼻の外へ、もりもりと飛び出しておりました。
元々、体内の水分が多く、かなりむくんでいる状態に加え、安静にご移動もできず、そもそも体内での出血もあるようです。
ご安置までの段階で、かなりの水分を吸収したことが分かります。
長いピンセットでできる限り奥まで除去し、栓となるように、奥に綿を詰めます。
ただ、どれほど注入されているかは、病院の方々しかわかりません。
体液と注入量が多すぎるようであれば、その栓も押しのけて、まだまだ出てきます。
ご家族にご説明し、その日はご自宅をあとにしました。
結局、ご自宅に居ることができる3日間、ドライアイスの交換に伺う度、多量に飛び出た高分子吸収剤を除去しつづけました。
ご葬儀当日もご家族が到着する前に、高分子吸収剤を除去して対応いたしました。
ご家族からお礼の言葉をいただくたび、病院のご処置に憤りをおぼえます。
落ち着くご自宅で、慣れ親しんだご友人と逢える最後の時間なのに、鼻から何かが飛び出ている姿で対面なんて、女性にとってどれだけ恥ずかしいことでしょうか。
詰めたものが綿であれば、交換して出血や体液の流出へ対応できるのに!!
病院から出た後のことを何も知らないで、こんなご処置を行い続ける病院の気が知れません。
このような悲しい様子はこの方だけではありません。
ご葬儀の現場では、よく見る光景です。
高分子吸収剤の使用は本当に止めていただきたいです。
【故人のカルテ】 漏液のポイント
葬儀についての資料を
ご送付いたします。