納棺師が綴る『故人カルテ』

2016.08.11

故人のカルテ17 臭いとの闘い その②

故人のカルテ17 臭いとの闘い その②

前回、亡くなられた方のお身体から発せられる臭いについて、湯灌の必要性と無理な着替えによるダメージのお話をいたしました。

故人のカルテ16 臭いとの闘い その①

⇒http://sougi-sakura.com/blog/makeup/smell/

 

亡くなられた方のお身体から発せられる臭いは様々です。

ガンなどの病気特有の臭い、薬や補液成分の臭い、表皮の汚れによる臭い、漏れた血液の臭い、吐しゃ物や排泄物の臭い、口臭、褥瘡臭、腐敗臭…

生前からの臭いと死後変化による臭いの両方が混在し、ご家族を悩ませます。

 

臭いの成分の多くが、細菌によってタンパク質が分解されて生成する物質ですが、日本では正確に解明するような学術的な作業は行われません。

クロマトグラフィーで分析したとしても数十以上の成分が検出されるはずです。

疾病や環境、保菌している常在菌の種類などで状況は変わり、おそらく100種類以上の化合物が存在するものと思われます。

 

市販の消臭剤は、決まったターゲットに対して、酸性の物質であればアルカリ性の物質を対応させて中和することで消臭しています。

 

ご遺体は、先に述べたように様々な臭いの物質が混在するため、臭気対策として酸やアルカリを使用した中和消臭法は効果がありません。

むしろ、使用した薬剤の臭いと混じることで、更なる不快な臭いへ変わる場合さえあります。

 

つまり、亡くなられた方の臭いには、消せない臭いが多々存在するということです。

それらの中でも、最も臭いを軽減することが難しい事例を紹介します。

 

その② 褥瘡(壊死した部位)があります。臭いがひどいです。

 

「褥瘡 じょくそう」とは、寝たきりなどによって、体重で圧迫されている場所の血流が悪くなり滞ることで、細胞に酸素や栄養がいかなくなって生じる圧迫創です。

年齢やむくみ、薬による免疫力の低下などで皮膚が弱くなった部位での繰り返しの摩擦などでも生じます。

一般的に「床ずれ」と言われています。

最初は、皮膚が赤くなる程度で、体位変換をこまめに行うことにより回復できます。

しかし、寝たきりなどの場合、慢性的に生じてしまうため、酸素や栄養が絶たれた細胞は死んでしまい、「壊死」をひきおこします。

 

損傷している部位での細菌の活動は、栄養素・水分・温度といった環境が整っているため、とどまることはなく、ただれや傷、水泡ができるだけでは済みません。

表皮、真皮、皮下組織、筋肉と順に細胞が脱落し、骨まで露出するような状況にも進行します。

敗血症をひきおこす要因でもあり、損傷部位では様々な細菌が繁殖し、激しい臭気を生じます。

 

生前の日々の消毒によって、薬剤耐性を持つ細菌がいる場合もあり、細菌を死滅させることも難しく、また腐敗した細胞を除去することは非常に困難です。

 

臭いは、臭いの元を絶たなければ消えません。

壊死した部位がある場合、その臭いを消す方法は、切断して除去する以外ありません。

 

また、残念なことに、壊死した部位の細菌の活動は、死後も続きます。

特に褥瘡は、背部に生じます。もっとも冷却が効かない位置です。

悪臭だけでなく、膿や体液の流出が続きます。

 

医者以外、お身体の切断などできません。

私たちは、この臭いにどのように闘えばよいのでしょう…

 

ガンなどの病気特有の臭い、薬や補液成分の臭いなどの場合、消せない臭いであっても弱いため、別の香り成分を加えるマスキング法で、元の臭いを誤魔化せます。

壊死による臭いは非常に強く、手を加えてもよりいっそう不快になるだけです。

 

全身が腐敗していて、お顔も確認できない状況であれば、納体袋を使用して密閉する対応でも納得していただけるはずです。

壊死部位はお身体の一部分なのです。

最も臭いを軽減させる方法ですが、そのような対応だけでは対処しきれないでしょう。

 

通常の死後のご処置とは言えないレベルの対応です。

損傷部位からの膿や体液流出に対応するため、脱脂綿や吸水シートを多量に使用し脱落した組織の代わりを造ります。

そのうえで、ビニール製のシートを何重にも巻き、臭いがこれ以上漏れないように封じます。

更に、気密性が非常に高い(エンバー棺)へご納棺し、保冷施設でドライアイスを常時あて続けて凍結させる必要があります。

ここまでおこなっても、完全に臭いがなくなるわけではないのが、壊死による臭い対策の難しいところです。

 

ご自宅でのご安置を望む場合は、この臭いと付き合わなければなりません。

 

 

亡くなられた方のご処置をさせていただく私たちは、毎日至近距離で数時間様々な臭いと闘っています。

ひどいときは、自分の鼻の奥で数日その臭いに悩まされます。

しかし、ご家族が安心して過ごせるように対応した結果だと思えばなんてことはありません。

 

どうかひとりでも多くの方に褥瘡ができないよう、介護環境が整うことを切に願います。

 

 

【故人のカルテ】 臭気対策のポイント

  • 原因を除去できないものは、臭いを消せない
  • 殺菌剤や芳香剤の使用によっては、臭いがひどくなる場合がある
  • 褥瘡部位など、壊死した部分がお身体にある場合、完全に臭いを消すことは難しい
  • 面会やご安置の環境によっては、臭いと付き合う必要がある

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