なずな日記

2019.04.14

花の季節に旅立った友

花の季節に旅立った友

桜がもうすぐ咲き始めるかという時期に、一方のブロ友から連絡がありました。

「なずなさん、私、緩和病棟に入院することになりました」

緩和病棟と言うのは、治療のすべがなくなった患者に、苦痛を取り除くことを目的とした治療をする病棟です。

 

この方と知り合ったのは、私が書いているブログを通してでした。この方もブログをしていました。個人としてのブログも持っていましたが、お花の先生をしていたので、教室のお知らせ用ブログもありました。そこには花に囲まれた美しい女性が微笑んでいました。この方がIさんです。お互いにコメントをしあい、メールで連絡をするようになりました。

 

ブロガーたちはオフ会と言って、実際に会うこともありますが、この方とは会ったことがありませんでした。この方は関西在住なので、なかなか会う機会がなかったのです。

 

この方が乳癌になったと連絡してきたのは去年の秋くらいだったでしょうか。

手術は無事に終わりましたが、その後、食べる物には何に気を使っているのか?水はどうしているか?そんなことを聞いてくるようになりました。私も乳癌になりましたが、術後無事10年以上経っています。元気の秘訣を聞きたかったようです。

私はサプリメントは摂っていませんが、健康的な食事と生活習慣は大事だと思っています。ごく一般的に、こんなことに気を付けています、ということを伝えました。

 

他のガンに比べると、乳癌は進行が遅いものです。例えばガンが再発した時はすでに80、90の齢で、天寿を全うしたとも言える場合も多いのです。

しかしこの方の乳癌は進行が大変速いものでした。手術してから緩和病棟に入院するまで、1年半くらいしかなかったのではないでしょうか。

 

もう最後かもしれない。ぜひ会いたいと思うようになりました。

「迷惑でなければ、今度お見舞いに行きたいわ」

そうメールの返信をすると、ぜひ来てくださいとの連絡がありました。

「こんな形ではなく、もっと早くお会いできればよかったですね」

とも言っていました。

 

共通のブロ友にも声をかけて、4月の某日に行く予定でした。

しかしある日の朝、ご主人から、連絡がありました。

「その日まで持たないかも知れない」

一緒に行く予定の友達は家族のことで手が離せません。しかし、私には独り身の身軽さがあります。

「それでは、今から行きます」

新幹線のぞみは10分に一本くらい出ています。自由席に飛び乗りました。

こんな時はいつもならサンドイッチで缶ビールでも飲むところですが、この時はそんな気にはなれませんでした。

ぼんやりと窓の外を眺めながら、間に合えばいいのだけれど、と心の中でつぶやくばかりでした。

 

病院に付くとナースステーションで面会の許可をもらい、教えられた病室に向かいました。

「Iさん、なずなです!」

ブログ画面の中で花に囲まれて微笑んでいた美しい彼女は、病にやつれてベッドに横たわっていました。意識はあって、私を見てにっこりと笑いました。

「痛くない?」

「うん、大丈夫」

ずっと前に知り合っていたはずなのに、実際にはこれが初対面。昔なら考えられない出会いが、今ではあります。

部屋の中にはご子息と娘さんが立っていて、片隅でご主人がハンカチを目に押し当てています。

あまり長居しては疲れてしまうと思い、5分か10分くらいで病室を後にしました。その後廊下でご主人とかなり長い立ち話をしました。

 

なぜうちのだけ、こんなに進行が速いのか?いろいろな先進医療や、民間療法も試したかった。しかし、体が衰弱する方が速くて何もしてやれなかった…

 

ご主人としては、あれもしてあげたい、これもしてあげたいと思うものの、思い通りにならないことが歯がゆくてならないようでした。

 

「なずなさんが来るのを本当に楽しみにしていたんですよ」

「ありがとうございます。ご家族様もお体に気を付けてください」

 

帰りの新幹線では、サンドイッチをつまみにビールを飲みましたが、浮かれた気にはなれませんでした。富士山が見えると、何人かの乗客が写真を撮り始めました。富士山にも少しずつ春が訪れているようで、雪の衣が少し薄くなったように見えました。

 

翌日の朝、携帯が鳴るので出てみると、Iさんのご主人からでした。

「今朝、亡くなりました」

こんなに早くと思うとともに、ああ、間に合ったという気持ちも沸き上がりました。

「そうですか、残念です」

 

お花の好きなあの方は、桜が満開のときに身罷りました。あの方らしい…

 

死は悲しいものです。しかし、私が一つだけ羨ましく思ったのは、最愛の家族に囲まれて亡くなったということです。

子供もおらず、そして私が一番看取って欲しいおいちゃんは、すでにこの世にいません。

 

この世にはいないけど…

 

おいちゃんは私を、あの世からお迎えに来てくれるものと信じています。

 

 

Books

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