なずな日記
2019.08.15
「MとAっていうのが近所に住んでいてな、Mが親分でAが子分みたいな感じだった。二人とも家が貧乏だったんだよ。MとAは同じ境遇を感じていたのかな」
おいちゃんはある夏の日、その二人のことを話し始めました。
「お母さんも働いているだろ?だからどこにも連れて行ってもらえなかったんだ」
おいちゃんが子供の頃に近所に住んでいた二人の男の子。ふたりとも家が貧乏だった上、暴れん坊。近所のお母さん方からすれば、「あの子達と遊ぶと何をされるかわからない」と思われるやんちゃぶりだったそう。でも、子供から見れば、特にM君は、面倒見のいい親分肌の子で、おいちゃんも一緒によく遊んだそうです。
「その二人が子供だけで海に遊びに行ったんだよ」
泳ぐのも、プールばかりじゃつまらない。一度は海に行きたいなあ。二人は近所の子供が親と一緒に海に行くのを、羨ましい気持ちで見ていたようです。
でもうちのお父さんやお母さんは忙しいから、連れて行ってくれない…
昔のことですから、親が忙しい場合、近所の大人が、「一緒に行くか?」と、声をかけることもありました。
しかし、何せ大人からは「乱暴者」と思われている二人ですから、誘ってくれる大人はいません。
海に行きたいなあ…そうだ!
二人は自分達だけで、海に行くことを思いつきました。
二人で海に行く支度をして、子供だけで電車に乗るのは、それだけでもスリリングなことです。そうして二人は海に向かったのです。
海に着いてから、彼らは着ている物を脱ぎ捨て、はしゃいで海に飛び込みます。
「くちびるがむらさきだよ。いったん海から上がらなくちゃダメ」などという、「くちびるむらさき判定」をする大人もいません。誰にも邪魔されずに思いっきり遊び、のどが乾いたら帰りの電車賃の心配をしながら、アイスを買いました。
これで無事帰れば、ひと夏の冒険旅行で終わったのですが…
「Aが溺れて死んだんだよ」
人の死は痛ましいものです。特に子供の死は…
親御さんの嘆きはいかばかりか、それと共に一緒に海に行った、M君の心にも大きな傷が残ったことは、想像に難くありません。
私がこの話をおいちゃんから聞いたのは、いつの頃だったか。
お義父さんやお義母さんもまだ元気だった頃に、おいちゃんの実家で聞いたことなので、もう10年以上前のことだったと思います。
そんな長い時が流れても、思い出すと、いまだに胸を締め付けられるような痛みを感じる、悲しい話です。
8月13日から月遅れのお盆です。
新暦の方に親しみを感じる私ですが、お盆だけは8月の旧暦のお盆の方がしっくりします。
お盆休みと言えば8月のこの時期ですし、高校野球もこの時期です。そんな事情もあって月遅れのお盆に親しみを感じます。
おいちゃんの家はカトリックなので、お盆は特にしなかったようですが、亡くなった人が帰ってくるというお盆は、私にとっておいちゃんを偲ぶ大切な時になりました。
おいちゃんと私の父は私が祀っています。お義父さんとお義母さんはお姉さん達が祀っていますが、お盆になったらお義父さん、お義母さん、この家にも来てください。
もちろん、A君も。
葬儀についての資料を
ご送付いたします。