なずな日記
2019.08.24
私、畦道耕作は4年前の夏に亡くなった。友達と旅行に行って、大好きな温泉三昧を楽しんでいた。
しかし、気が付いたら自分の体が横たわっていた。どうしたんだろう?そのうち近くがざわざわとして、私の名前を呼ぶ声がした。
「畦道さん!畦道さん!」
「俺、ここにいるんだけど」
その友人に声をかけたのだが、向こうは私のことが分からないらしい。
そのうち救急車が到着して、私の体が病院に運ばれた。
医師による心臓マッサージを受けているうちに、女房のなずなが到着した。
「おいちゃん、こっちに帰っておいで」
なずなは私の耳元でささやいた。
戻りたい。でも、もう戻れない。私は自分の体に入ろうと試みたが、やはり無駄だった。なずなが泣いている。
どうしてみんな、私のことが分からないのかと、その時は不思議で仕方なかった。
そのうちに気付いた。私は死んだんじゃないか?だとしたら、泣くなと言っても無理だよな。
なずなの肩にそっと手を置いた。まったくこちらには気づいていない。なずなは私の足側に回ると、足の裏をマッサージし始めた。毎朝そうやってマッサージをしてくれた。それから私は起き上がったものだ。もう、起き上がることはない。
病院には、いつの間にか警官がいた。病院で亡くなった訳ではないので、事件性があるかどうか、確認が必要だったらしい。
警官は自分の勧める葬儀社を呼ぶように言っていたが、なずなは今までお世話になったさくら葬祭に連絡したようだ。よしよし。
しばらく待つと、さくら葬祭の担当者が到着した。担当者は、淡々と私の体を車に収容して行った。
なずなは、家に帰ることにしたようだ。私はなずなに付いて行った。なずなは我が家に帰って、しばらくぼんやりしていた。私はいつもの席に座って、なずなを眺めていた。
そのうちなずなは、電話を取ると、私の姉達に連絡した。みんな何のことか、ピンと来なかったようだ。
そうだよな。あんなに元気だったのに、人間なんてわからないものだ。
私の体が家に帰る日、姉達も家に駆け付けた。
「何やってるのよ、もう!」
二人とも異口同音に言って、泣いている。
ごめん。ねえちゃん達、そして何よりもなずな。
でもな、私が死んだのは、天からの約束、寿命と言うものなんだよ。
人が亡くなったとき、一番しっかりしないといけない人間、この場合なずな(配偶者)だが、気が動転しておかしなことをすることもある。
こんな時は、周りの意見を聞くように。この場合、ねえちゃん達か、その配偶者にでも。
あの時は大変だったね。悲しい思いをさせてしまった。泣いてばかりの日々もあった。時薬と言うが、ふとした時に悲しみを思い出すこともあったようだ。
私はいつもなずなのそばにいて、励ましているよ。判るかな?
実はお盆に限らず、いつもそばにいる。
いつの日か、なずなもこちらに来ることになるよ。
その日まで、逞しく、楽しく、生きておくれ。
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