なずな日記
2020.07.14
おいちゃんの命日が今年も来た。最近、雨がよく降るけれど、今日もやっぱり雨降りだ。おいちゃん、命日くらい雨が降らないようにできないの?
「そろそろ行こうか?」
私は傍らにいる人に、声をかける。家には誰もいなくなるから、戸締りはしっかりしよう。
電車とバスを乗り継いで、墓地に着いた。
花は墓地近くの花屋さんで買うことにしているけど、家の近くで買うよりかなり高い。そうだ。今度から、うちの近くで買えばいいんだ。今度から、そうしよう。こんなことが、案外思い浮かばなかったりする。
雨の中を、畦道家の墓へと向かう。少しだけ、雑草が生えていた。おいちゃんが亡くなって、割とすぐに、石屋さんの勧めで敷地内を改装したから、あまり雑草は生えなくなった。けれど、隣のお墓からヤブガラシが遠征に来ている。うちの墓の雑草とともに、これも引っこ抜いた。
「ねえ、この雑草、捨てて来てよ」
そう頼んでも、一緒に来ているこの人は、何もしない。草むしりをするのも、花を活けるのもすべて私がする。まったく、怠け者なんだから。
いつもなら、墓石を拭き掃除するんだけど、今日は雨が降っているから割愛。汚れも雨が洗い流してくれるはず。
「いいよね、これだけすれば」
私は一緒に来た人に向かって言った。
「いいよ、そんなもんで」
その人も笑顔で肯いた。
花立てをきれいに洗って、持って来たお花を生けると、お墓がきれいになった。そしていつもと同じように、墓前にしゃがんで両手を合わせる。
そちらでは皆さん、元気にしていますか?そちらには、そちらの世界があると聞きました。この世に来るのはほんの一時の旅で、そちらは本来いるべきところで、魂の帰る場所。畦道家の宗教であるカトリックでは、「帰天」と言うと聞きました。
墓誌には、亡くなった人の名前と享年が書いてある。何だか早死にしている人が多いと思うのは、時代のせいだろうか?昔の人は人生50と言ったものね。長生きしたと言えるのは、おばあちゃん、お義父さん、お義母さん。
おいちゃん、今の世の中で、58で亡くなるって早過ぎないか?今どき人生50って、古過ぎないか?今は人生100とか言っているよ。
一番最後の、おいちゃんの名前。その次の、最後のスペースに、いつの日か私、なずなの名前が彫られるはず。あんまり早くじゃ嫌だからね。もうちょっと、人生を楽しんでからね。
ゴートゥーキャンペーンもあるけど、今年は旅行に安心して行けるだろうか?何だか心配になってしまう。
「それじゃ、皆さん、さようなら。今度来るのは、お盆かな」
地方によって、お盆は7月だったり、8月だったりするけれど、私の中ではお盆は8月。お盆休みは8月だし、高校野球も8月だもの。
雨の日の墓参りも大変だけど、暑い日の墓参りも大変だな。
そんなことを思いながら、雨の日の墓参りを終えて、帰路に就く。
「おいちゃん、帰ろう」
傍らにいるその人の姿は、おいちゃんは私には見えない。見えないけれど。
帰るのは二人。おいちゃんと一緒に、家に帰る。
葬儀についての資料を
ご送付いたします。