なずな日記
2018.03.23
亡くなって49日までの間、霊はこの世の人との別れの挨拶をするため、この世にとどまるといいます。だからこの間に、たくさん思い出を作っておいた方がいいと、不思議ちゃん系の友達からアドバイスされました。
入場料だって交通費だっておいちゃんの分はかからないよ。得した気分になれるから。
だから早速、おいちゃんと時々行っていたトンカツ屋に行きました。ここのトンカツは柔らかくてボリュームがあって、おいしいんだよね。
おいちゃんと行っていた時のように、自転車でその店に行き、店の前に自転車を止めて扉を開きました。
「何名様?」
いつもの声で、カウンター横の女性が尋ねます。一瞬の間をおいて私は答えました。
「一人です」
係の人が案内してくれます。
「今日はお一人ですか。珍しいですね」
目を伏せて黙ってうなずきました。本当は二人なんですと、言葉にすれば涙が込み上げて平静ではいられなくなってしまうからです。
いつもおいちゃんと座る席に着いて、エビフライとトンカツのミックスフライ定食を注文しました。私はいつもこれを注文しますが、おいちゃんはエビフライ定食でした。
他の人には見えないように、おいちゃんの遺影をそっと椅子の上に置きました。おいちゃん、ここにいるんだよね。おいちゃんはここのエビフライが大好きだったねえ。
「お待ち遠様でした」
ほどなくして来たミックスフライ定食、おいちゃんも一緒に食べられる?仏様になったら、香りを食べると聞いたことがあるけれど。
おいちゃんはタルタルソースをキャベツになじませて、それをエビフライに付けて食べるのが好きでした。今日は私がまねします。
会計をお願いするときに、おいちゃんの遺影を出しました。
「実は主人が亡くなったんです。主人はここのエビフライが大好きだったので、食べに来たんです」
「あら、まあ」
ここの大奥さんだろうか、会計係の女性は驚いていました。この店の主であろう寡黙なコックさんは、おいちゃんの写真に手を合わせてくれました。
いつもお客さんでいっぱいのこの店が、この瞬間だけお客さんが一人もいなくなったのは、おいちゃんが挨拶をしたかったからかも知れません。
おいちゃん、今度は何を食べたい?どこか行きたいところはある?
何でも食べさせてあげる。どこにでも行ってあげる。天気が良かったら、高尾山にでも行ってみようか?
それ、全部お前が食べるんだろ?全部お前が楽しむんだろ?とか言いそう。
まあ、そう言うなって…
あの世の修行が一段落したら、霊魂はこちらの世界にも来られると、尼僧のSさんが言っていた。もしそうなら、一生懸命修行に励んで、一日も早くこちらの世界に来て。そして、私に会いに来てください。
葬儀についての資料を
ご送付いたします。