納棺師が綴る『故人カルテ』
2016.06.06
おくりびとの想い~
やすらかに眠っている姿にしてさしあげたい。
ご負担なく、心地よく、最後の時間までやすんでいただきたい。
色とりどりのアジサイがみられるようになりました。
もうすぐ梅雨本番。
スーツが雨に濡れることを気にしていられない仕事なので、風邪をひかないように、今一度気を引き締めて過ごしてまいります。
前回、お棺の選び方として、基本となるサイズのお話しをいたしました。
故人のカルテ12 お身体の負担を考えたお棺の選び方 その①
⇒http://sougi-sakura.com/blog/makeup/coffin_1/
「体格に合ったサイズを選ぶ必要があるのはわかります。
素材や装飾などの見た目以外に、なにがどう違うの?」
皆さまからすれば、棺は棺。
どれも同じように見えると思います。
お棺は、大切な方々と最後を過ごすときの居場所です。
荼毘にふすための、一時的な、残らないものでもあります。
ただ、故人のお身体のご処置を行う私たちからすると、お棺は、「亡くなられた方のお身体を死後変化から守るもの」という認識です。
お棺の構造の違いで変わることがいくつかあります。
注目すべき点は、「ふた」の構造です。
形で大きく分けると、平棺、山型棺、インロー棺の3種類があります。
(組み合わせもあります。 平インロー棺、山型インロー棺等)
平棺は、平らな板が、「ふた」として、棺本体の上にのっているものです。
長い箱という印象でしょうか。
一番シンプルな構造です。費用も抑えられます。
山型棺は、字のごとく、「ふた」が盛り上がっているものです。
曲線を描くような構造のものを、アール棺、ドーム棺ともいいます。
棺本体と合わさる部分に、凹凸があり、平棺よりしっかり閉じます。
インロー棺は、水戸黄門がかざす印籠(いんろう)のように、「ふた」が棺本体にかぶさるようになっているものです。
立派なものになればなるほど、すーっと密着するように閉じる事ができます。
「ふた」としての能力、つまりお棺の気密性は、
平棺 < 山型棺 << インロー棺 となります。
また、どれも木製です。
木は、湿度によって膨張し、収縮する性質があります。
ご安置が日延べになると、結露の影響もあって、ゆがみが発生します。
特に平棺は、板が上にのっているだけなので、反り上がりやすく、気密性がかなり低下します。
腐敗が進行している場合、おすすめしたくありません。
ドライアイスの冷気が逃げるだけでなく、臭いもご家族に伝わってしまいます。
そして最も注目すべき点は、「ふた」の違いによる「棺の高さ」の問題です。
寝ている状況に「高さ」??と思われるでしょう。
以前、故人のカルテcase06にも記載しましたが、亡くなると、口は自然と開きます。
故人のカルテ06 口が開く理由 その③
http://sougi-sakura.com/blog/makeup/karte06_3/
人間の体の構造上、顎を引いた姿勢でやすんでいただくと、お身体に負担なくお口を閉じてさしあげることができます。
顎をひいて(お口を閉じて)、お棺の上部にある小窓から覗いてご面会ができるように、その人に合った枕の高さに調節してご納棺しております。
しかし、拘縮(こうしゅく)がある場合、棺本体の高さを超えてしまうことが多々あります。
拘縮とは、生前からの身体の硬直のことです。
背中が曲がっていたり、足が寝姿勢のまま横を向いていたり、動かせず、解くことのできない硬直のことです。
例えば、亡くなられた方の背中が曲がっているとします。
顎を引いた姿勢をとりつつ、ご納棺してさしあげようとすると下図のようになります。
このまま、曲がった背中がお棺の底に当たる位置へお連れすると、顎を引いた姿勢を続けることができず、お口が開きます。
お棺の種類が平棺であれば、点線の位置に「ふた」がまいります。
山型棺であれば、「ふた」に「高さ」があるので、お棺の壁側に頭部が近づくように少し移動していただきますが、小窓からご面会できるように、棺本体の高さを超えてもご納棺してさしあげられます。
平棺であっても、背が低く下半身に拘縮がなければ、腰元を上げて、膝を曲げることで、下図のようにご納棺してさしあげられます。
背の高い方(もも~膝が長い方)や、下半身にも拘縮がみられる場合、下図のように、平棺にご納棺すると膝が棺本体の高さを超えて、「ふた」を閉じることができません。
これは、ほんの一例です。
顎を突き上げるように首が固まっていたり、顔だけ横を向いていたり、体育座りをしているように膝が曲がっていたり、それが横向きだったり・・・
お身体に生じてしまう拘縮の様子は、その方の生活によって様々です。
色々なデザインのお棺がありますが、「見た目」が全てではありません。
その構造には、それぞれ必要な「機能」が備わっています。
また、お棺のお布団の下には、枕だけではなく、納棺師の腕と努力も詰まっております。
しかし、シンプルなものであるがために、対応しきれないこともあります。
お棺を選ぶ際には、費用との兼ね合いも大切ですが、お身体のご負担と、構造上の問題も考慮しなければなりません。
【故人のカルテ】 お棺を選ぶポイントとご納棺時のポイント
葬儀についての資料を
ご送付いたします。