納棺師が綴る『故人カルテ』

2016.04.26

長期安置とドライアイスの幻

希望する内容に合わせると、ご葬儀を待たなければならない状況があることを前回お話しました。

⇒http://sougi-sakura.com/blog/makeup/hold-over/

 

ご葬儀の日程が1週間以上も先になってしまう場合、どのように亡くなられた方のお身体をお守りすべきでしょうか。

 

・早急に保冷施設にご安置する

・早急にお棺にお身体をお連れする(ご納棺する)

 

死後変化を限りなく少なくするには、エンバーミング(防腐処理)を行わないとすると、この2点が必須条件となります。

 

亡くなると同時に、恒常性は失われ、様々な変化がお身体に生じます。

腐敗の進行を遅らせるには、「深部体温を5℃以下にすること」が重要なポイントです。

 

保冷施設の平均気温は、3℃~5℃です。

冷蔵庫と同じ温度で、細菌の活動を抑えます。

 

保冷施設にお連れしたとしても、すぐに体温が下がるわけではありません。

 

スイカを冷やす際、丸いまま冷蔵庫に入れても、なかなか冷たくならないのと同じです。

表面が冷たくなっても中心まで冷却するには時間がかかります。

 

早急に冷却するべき部位に、ドライアイスをあてて、効率よく全身を冷やします。

 

いかに早い段階で、細菌が多い胃腸を中心に、内臓がある身体の奥まで冷やせるかが、それ以降の死後変化に大きく関与します。

 

「ドライアイスをあてていれば大丈夫」と多くの方が考えていると思います。

 

残念ながら、ドライアイスも万能ではありません。

 

そもそもなぜドライアイスで冷えるのかご存知ですか。

 

ドライアイスは二酸化炭素を固体にしたものです。

私たちの過ごす、1気圧の常温の環境では、固体から液体を介することなく、直接気体に戻ろうと昇華します。昇華する際に、周囲の熱を奪うことで、冷却効果をえます。

 

しかし、その冷却効果は、広範囲には及びません。

締め切った部屋にドライアイスを置いても、クーラーのように室内全体を冷やすことができません。

ドライアイスをあてている位置から遠い、お身体の奥(内臓)~背中側、足などを冷やすのが苦手ということです。

 

更に、ドライアイスによって冷えた空気は、滞在し続けてくれません。

 

熱は、空気中の分子の振動です。

熱ければ激しく、冷たければおとなしくしているイメージです。

さらに暖かい空気は分子が少なく、冷たい空気は分子を多く含んでいます。

分子の少ない暖かい空気は軽く、分子の多い冷たい空気は重いという重量の違いが生まれます。

暖かい空気が多いと分子が激しく動き、空気中にスペースができます。

 

すると、暖かい空気は上昇し、冷たい空気は下降します。

 

ドライアイスによって冷やされた空気は、下に落ちてしまうので、横になった際、鼻など顔の高い部分を冷やすのが苦手です。

介護ベットなどの高い位置では、ベッドの下に冷気が落ちていくため、冷却効果が下がります。

 

ドライアイスの冷却効果を高めるには、冷気が逃げないように、また、位置の高い部分にも冷気が循環するように、ご納棺して密閉することが重要になります。

 

また、ご納棺することは、お身体の乾燥への対策にもなります。

 

乾燥による死後変化は、大きく「その人らしさ」を奪います。

修復できない変化も起こします。

 

冬場における故人のお身体

⇒http://sougi-sakura.com/blog/makeup/karte_005/

 

故人のカルテ07 革皮様化

⇒http://sougi-sakura.com/blog/makeup/karte07/

 

病気によるお身体の状態にもよりますが、ご葬儀までの期間が死後2~3日であれば、大きな変化が目にみえることは少ないでしょう。

 

しかし、長期間お身体をお守りすることを想定すると、早期の安置施設へのご搬送とご納棺なくして、死後変化に逆らうことができないのが現状なのです。

 

 

Books

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