納棺師が綴る『故人カルテ』

2015.11.23

故人のカルテ03 バセドウ病(眼球突出)

故人のカルテ03 バセドウ病(眼球突出)

おくりびとの想い~

やすらかに眠っている姿にしてあげたい。まぶたを閉じてさしあげたい。

 

亡くなられた方のまぶたが開いていることは、しばしばみられます。ドラマのようにさするだけでは、まぶたを閉じてさしあげることができません。

 

ご自身でまぶたを動かすことが出来ない故人は、つるつるとした眼球の表面にまぶたがのっている状態です。仰向けになっているため、重力に逆らえず、まぶたが眼球を滑り落ち、まぶたが開いてしまいます。

 

まぶたが開いていると、眼球が直接外気にふれてしまうので、乾燥が進みます。数日間ご葬儀を待っている方のように、目がへこんでいく変化が早々に生じます。

 

病院やホームのエンゼルケアでは、体液の流出等がなければ、特に何も施されません。まれに、医療用テープ(ガーゼを固定するテープ)を貼られていることもあります。

 

先月、夜が寒く感じだした頃。

「うちのコ、目が閉じないコなんですよ。なんとかなりませんか。」

弱冠40歳で、奥様を亡くされた旦那様にぽつりと告げられました。

 

お会いした故人は、眼球が盛り上がって突出しており、目を見開いておやすみになっていらっしゃいました。

死亡診断書に記載はありませんが、バセドウ病と推察されます。

 

自身の免疫によって、喉元にある甲状腺を刺激する物質がつくられ、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気です。直接の死因になるような病気ではありません。

「ホルモン」とは、魚類が性転換するように、身体に変化を起こす因子のことです。

甲状腺ホルモンは新陳代謝に関与します。

 

バセドウ病の症状のひとつに、眼球の奥の組織が増えて、目が前に突き出たように眼球が押し出される「眼球突出」があります。

前述したように、ただでさえ亡くなるとまぶたが開きやすい状態に加え、まぶたの合わさる位置が高くなり、手を加えなければまぶたは閉じません。

 

乾燥によってへこんでしまった眼球に形成した綿を置くとともに、通常より薄く伸ばした綿をまぶたにあてて摩擦を増やし、違和感が出ないようまぶたを合わせました。

 

「おい、お前ら!母さんが寝たぞ!!!」

見るやいなや、旦那様が急いで子供たちを呼びました。

両親と夫と3人の子供たちに囲まれて、ご自宅でゆっくりと休まれたのち、旅立たれました。

 

【故人のカルテ】 バセドウ病(眼球突出)のポイント

・綿を用いて、乾燥する前にまぶたを閉じる

・乾燥により眼球がへこんでいる場合は、眼球を形成する。

・まぶたが膨らんでいることもあるので、自然にみえるよう、綿の厚みを調節する。

 

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