納棺師が綴る『故人カルテ』

2016.08.10

故人のカルテ16 臭いとの闘い その①

故人のカルテ16 臭いとの闘い その①

おくりびとの想い~

清潔な姿で。お気に入りのお召し物で旅立っていただきたい。

 

 

毎日たくさん汗をかかざるをえない季節です。

汗とともに、臭いが気になる季節でもあります。

 

お身体から発せられる臭いは様々です。

亡くなられた方の場合、生前からの臭いと死後変化による臭いの両方があり、ご家族を悩ませます。

 

消臭剤のCMで言われているように、臭いは、臭いの元を絶たないと消えません。

しかし、消せる臭いと消せない臭いがあります。

 

 

消せる臭いは、体表面の汚れによる臭いのみです。

闘病の様子によっては、入浴の機会が限られることもあります。

ただ、歯やこめかみ、耳、首の裏、指や爪の間などの細かい部分まで洗浄しきれないことが多々あります。

 

生命活動がある限り、汗や皮脂、垢は、どの人にも発生しています。

そして人間の身体には、様々な「常在菌 じょうざいきん」と呼ばれる細菌が、中にも外にも存在しています。

元気なうちは、共生関係にあり、病原性の細菌やカビなどから守ってくれる強い味方です。

しかし、亡くなられると、常在菌は、様々な死後変化を生じさせる原因となります。

 

臭いの発生原因となる肌の汚れは、「湯灌 ゆかん」により、除去することが可能です。

 

「湯灌」とは、ご納棺する前にお身体を洗い清める儀式です。

古く平安時代にはすでにあったとされている習慣です。

当時の湯灌(古式湯灌)は、たらいに水を入れておき、お湯を加えて調温した温水を用いて、近親者が洗っていました。

近年、病院での看護師による「清拭 せいしき」が行われるようになり、都市部では「古式湯灌」はあまり行われなくなっています。

都市部では現在、「シャワー湯灌」と呼ばれるものが主流となっています。

浴槽にネットを張って、お身体が汚れたお湯につからないように、また体温が上がらないようにして、シャワーを使用し、髪から足の指先まで洗浄します。

 

優しくマッサージをするように、お身体の細かい部分まで洗浄するので、汚れによる臭いは消え去ります。

清拭では取り去れない垢も除去できるので、その後のファンデーションのノリが格段にあがり、日延べによる化粧崩れも抑えられます。

※敗血症により常に冷却が必要な場合や、大きな損傷がある場合など、お身体の状態によっては、湯灌が適さないこともあります。

 

ほとんどの方が何らかの体表面の汚れによる臭いを抱えていますが、「湯灌」によって解消されます。

しかし、消せない臭い、つまり原因を取り去れない臭いも多々あります。

 

 

その① 口から糞尿の臭いがする

 

年々多くなってきていると感じる現象です。

そのほとんどは、病院やホームで亡くなってすぐ行われる着替えによって発生します。

 

生物の消化器官は、口から肛門まで、1つの管で繋がっています。

逆止弁のようなものはなく、筋収縮や繊毛運動などにより、内容物は入口から出口に向かって流れて、排出に至ります。

亡くなられると、抵抗するものがないため、重力に左右されるのみです。

 

横になっている故人に対して、ズボンやジャケットに着替えようとする際、上半身を起こしたり、腰元を上げたり、「縦の動き」が発生してしまいます。

 

死後硬直が生じる前とはいえ、ご自身で動いて助けてくれるわけではないので、40kg以上にもなる成人を着替えさせるためには、何度も持ち上げておろすという行為になるはずです。

 

更に、「好きだったお洋服を持ってきてください」と、何の制約もなく伝えているでしょう。

 

伸びない素材だったり、元気だった頃のお洋服でサイズが合わなかったり、下着に肌着、重ね着だったり、かなり多くの回数「縦の動き」を行うことになります。

 

当然、重力に従うため、「縦の動き」を繰り返すことで、腸内の糞尿は入口に向かって逆流します。

口から糞尿の臭いがして当たり前の行為をしているからです。

 

また、着替えは体温が下がっていない時期に行われるために、糞尿と細菌を上半身側へ送って腐敗を促進させる行為でもあります。

 

映画「おくりびと」の影響で、お身体を起こした状態の着替え方が世間に知られました。

はっきり言って、パフォーマンスとして良いと思いますが、お身体に負担を強いる方法でもあります。

 

お身体の負担にならないように、浴衣などの頭から被らないタイプのものを「横の動き」で着替える方法を行うようにしています。

「縦の動き」が必要なお洋服であっても、内容物を含む胃腸を中心にドライアイスで冷やし固めたあとに行うことで、逆流を最小限に抑えることができます。

 

体内ですでに発生している臭いの原因を除去しきることはできません。

 

鼻と口から臭いがもれないように閉じて、臭いが出ている所を遮断するしかありません。

しかし、インプラントや拘縮の様子によっては、口を完全に閉じきれない場合もあります。

 

故人のカルテ06 口が開く理由 その③

⇒http://sougi-sakura.com/blog/makeup/karte06_3/

歯を大切に

⇒http://sougi-sakura.com/blog/makeup/tooth/

 

病院へ亡くなられた方をお迎えにあがった時点で、「やってくれたな」と思ってしまうほどに異臭を感じるレベルの時もあります。

 

健康保険対象外である病院やホームのエンゼルケアは、付加価値をもたせるために必要かもしれませんが、「その先のこと」を知らないために、取り返せない状況も生んでいることに気付いてほしいものです。

 

 

【故人のカルテ】 臭気対策のポイント

  • どんな原因で発生している臭いなのか推察できる経験を積む
  • 多量の垢が付着している場合、メイクがのらない。湯灌が必要な状況がある
  • 口腔内の汚れは、アルコールや次亜塩素酸ナトリウムを使用して殺菌し、口臭を防ぐ
  • 糞尿が逆流した臭いが感じられる際、冷却管理に注意するとともに、ご家族への現状の説明を行う。場合によっては、無理な口閉じにより笑顔が失われることも説明が必要
  • 着替えの際は、極力「縦の動き」の回数を減らす
  • 故人に適した洋服のアドバイスをする
  • 「お着替え」として、お棺に入れていただく提案も行う
  • 糞尿の逆流する臭いが発生する可能性があることを説明したうえで、十分に胸下~下腹部をドライアイスで冷却し、死後硬直を解きつつ着替えを行う

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